取り組み・活動

キャリア・生き方
2022年09月29日

日本の女性プログラマー第一号として道を切り開き、全ての人が能力を最大限発揮できる社会を目指す

WOW WORLDがスポンサーを務める『森清華のLife is the journey』(かわさきエフエム)は、パーソナリティの森清華さんが、最前線で活躍されている企業経営者や各界のスペシャリストの“人生の分岐点”から、「これからのキャリア、生き方のヒント」を紐解いていくラジオ番組です。

今回はゲストに、「日本の女性プログラマー第一号」と呼ばれる、株式会社ゼスト 代表取締役 伊藤由起子さんをお迎えしました。大学時代、飲食店での偶然の出会いをきっかけに、当時女性が活躍することが難しかったエンジニアの世界に飛び込み、25歳で起業。会計やスケジュール自動生成のシステムなど、これまで世の中になかったものを生み出し、全ての人が最大限能力を発揮できる社会を目指して取り組み続ける伊藤さんに、情熱の源泉や大切にしていることについて伺いました。

※『森清華のLife is the journey』は、かわさきエフエム(79.1MHz)にて毎週水曜日 午後9時~9時30分オンエア。このコーナーでは、その中から月に1本、当社が選定した回を一部抜粋してテキストでご紹介します。

【キャリアのスタート地点】日本第一号の女性プログラマー誕生のきっかけは、不便なタイプライターだった

スペイン語を学んでいた大学1年生のとき、偶然の出会いが重なり、「女性には無理」と思われていたエンジニアの世界に飛び込みます。

森さん エンジニアの世界との出会いは、どのようなものだったのでしょうか?

伊藤さん 大学1年生のときでした。大学ではスペイン語を学んでいて、当時はタイプライターで文章を作成していたのです。文字を打ち間違えたら紙を送り出し、砂消しゴムで消して、再度戻して打ち直すという、今では考えられないような作業をしていました。

そんなときに、コンピューターの専門学校に通っている男性から「コンピューターではカーソルというものを間違えた文字のところに合わせて打ち直すだけで、文字が置き替わるんだよ」という話を聞きましてね。「すごい!自分も触ってみたい」と、非常に興味を感じたのです。しかし当時は、コンピューターが一台何十億、何百億もするような時代で、簡単に触ることはできませんでした 。

森さん それがコンピューターに興味を持ったきっかけだったのですね。

伊藤さん そうですね。その後、飲食店でたまたま隣り合わせた男性が、「自分はコンピューターの会社に勤めている」とマスターに話しているのが聞こえてきたのです。見も知らぬ人でしたが、「給料はいらないから、ぜひ仕事させてください」と頼み込み、会社に連れていってもらいました。それがまた偶然にも、大学の近くにある会社で、このチャンスを逃すまいと、社長にも必死に頼み込んだのです。

当時は、理工学系の大学か、コンピューター系の専門学校出身で、しかも機械いじりができる男性でないとエンジニアの仕事は無理だと思われていた時代。社長からは「女性には無理ですよ。もし一つでも壊されたら会社が倒産するからやめてください」と言われましたが、何とか大学在学中に入社させてもらいました。

【人生の分岐点】女性が活躍できない歯がゆさを感じ起業。人に役立つシステムを生み出す

就職したのは、男女雇用機会均等法の施行前。IT業界は完全に男社会の時代で、女性はお客様との打ち合わせもできない状況だったため、「もっと人の役に立ちたい」と起業の道を選びます。

森さん 前例のない中で入社された後、懸命に学び、社内でトッププログラマーとなられたそうですね。その後、なぜ25歳のときに起業されたのでしょうか?

伊藤さん もっとお客様のお役に立ちたいと思ったからです。当時、男女雇用機会均等法の施行前でもあり、女性はお客様に直接会うこともできませんでした。お客様の困りごとも、人づてに話を聞いて「おそらくこういうことで困っているのでは」「その裏にも何か悩みがあるのだろうな」と想像しながら作業せざるを得ず、とても歯がゆく思っていました。

お客様から直接話を聞けたら、もっとお役に立てるはずだと感じていたので、まずは独立しようと決めました。3年間がむしゃらに働いて誰にも認めてもらえなかったら、技術者としてまた会社に勤めればいいくらいの気持ちでしたね。実際に一人で仕事を始めてみたら、企業が個人の女性に仕事を依頼するのは難しいので会社にしてほしいと頼まれまして。「周りが喜んでくれるなら」と、会社経営について何もわからないまま起業しました。

森さん 今と違い、起業に関する情報の入手が難しく、起業家を支援する方々も少ない時代でしたよね。そのような中で、最初はどのように仕事をされていったのでしょうか?

伊藤さん 最初はできることを何でもやろうと思っていましたが、お客様の役に立つためには、お客様が一番必要としているものを作るべきだと考えるようになりました。私たちの得意なことで、圧倒的に誰にも真似できないものを作っていく。そのような思いで仕事を進める中で有名になったのが、ソフトバンクの孫社長(当時)がテレビで紹介された「3日間で月次決算ができる日次決算システム」です。今でこそ、さまざまな会計ソフトがありますが、私たちは35年前にゼロから作りあげました。

森さん お客様の役に立つという視点で、さまざまなものを作り続けてこられたのですね。現在はどのような事業を展開されているのでしょうか?

伊藤さん 在宅医療の訪問スケジュールを自動的に生成する、クラウドサービスを提供しています。

在宅医療は、サービスを受ける患者さんの状況が一人ひとり違いますし、医師や看護師、介護士など関わる人も多様です。スケジュールを作成するには、医学的なことも含めて全てを熟知している人でないと難しいという現状がありました。そのため、社長や管理責任者が毎日夜中や早朝に2時間くらいかけてスケジュールを組んでいらっしゃったそうです。

そこで、ボタンを1つ押せば5~10秒くらいで全員のスケジュールが一気にできあがるシステムを作りました。スケジュール作成に費やしていた残業時間がゼロになった、と言っていただいています。

【情熱の源泉】人に喜ばれたいという気持ちと、人の居場所を作りたいという気持ち

人のためになるものを生み出し続ける情熱の源泉は、「人に喜ばれたい」という気持ちと、幼い頃に感じた「自分の居場所がない」という経験からきているという伊藤さん。一人ひとりが才能を最大限活かせる、それぞれの居場所を作りたいという想いについて伺います。

森さん 伊藤さんは今年で60歳を迎えられるそうですが、ずっと挑戦を続けていらっしゃるのが印象的です。その情熱の源泉はどこにあるのでしょうか?

伊藤さん やはり「人に喜ばれたい」という気持ちは強く持っていますね。それは、幼い頃から「自分が所属する場所がない」と感じていた経験からだと思います。私は帰国子女で、イギリス、ドイツ、アメリカなど、文化圏や言語が違う国で過ごしました。日本に帰ってきても、日本人の顔をしているけれど日本人じゃないと思われるなど、なかなか自分の居場所が見つかりませんでした。

IT業界でも、女性には仕事を任せてもらえない時代でしたので、会社の中に居場所がありませんでした。だからこそ自分の会社は、自分だけでなくスタッフにとっても、それぞれの居場所にしたい。そして、一人ひとりが才能を最大限に活かして活躍できる社会をつくりたいという強い想いが、昔からずっと私の中にありました。現実的にはなかなか達成できないエンドレスな目標です。だから、ずっと走り続けているのだろうなと思います。

【背中を押すメッセージ】「Be Zesty」自分の良さを最大限に活かし、世の中に役立てる

森さん これから自分の夢を実現しようと考えている方々へ、背中を押すメッセージをお願いいたします。

伊藤さん 社名にも「ゼスト」とつけているように、「Be Zesty」という言葉を大切にしています。「Zesty」はさまざまな名詞と一緒に使われる形容詞で、「最大限活かす。最大限に良くなる」という意味を持っています。

私たちが目指しているのは、Zesty PeopleでZesty Systemを提供すること。それは、自分や仲間の得意分野を最大限に活かし、 最高のものを目指し続けていくことです。根底にあるのは「長所伸展」です。「良いところをひたすら伸ばしていき、世の中に役立てていきましょう」という気持ちで取り組んでいます。自分が落ち込んだときは、自分の得意なことや好きなことを本当にやっているかと振り返り、「Zestyであり続けているか」と、自分に問いかけています。

『森清華のLife is the journey』
→アーカイブ放送は、こちらからお聴きいただけます