取り組み・活動

キャリア・生き方
2025年04月30日

技術職からコーポレート・ベンチャーキャピタルの立ち上げへ。新規事業の道を歩み、熱意と努力で可能性を切り拓く

本記事は、WOW WORLDがスポンサーを務めていた『森清華のLife is the journey』の放送内容の一部をテキストでご紹介するものです。当番組は2025年3月に終了するまで、かわさきエフエム(79.1MHz)にて8年半にわたり放送。パーソナリティの森清華さんが、最前線で活躍されている企業経営者や各界のスペシャリストの“人生の分岐点”から、「これからのキャリア、生き方のヒント」を紐解きます。(※文中の組織名、ゲストの方の肩書等は放送当時のものです。)

今回のゲストは、ブラザー工業株式会社 新規事業推進部長 安井邦博さんです。ブラザー工業はミシン事業からスタートし、プリンターやラベリング機器、工作機械、通信カラオケ「JOYSOUND」など、時代とともに事業を多角化。新規事業推進部はさらなる成長の柱の創出を担い、これまでに燃料電池や空調機器(スポットクーラー)、生産性向上アプリなどの新製品を生み出してきました。
安井さんはブラザー工業に入社し、当初は技術職としてFAXの機械設計などを担当。1997年から2年間シリコンバレーにリサーチャーとして滞在し、帰国後、日本アジア投資株式会社との連携でコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)を立ち上げます。以来、オープンイノベーション※推進の責任者として活躍されています。

そんな安井さんに、キャリアに対する考え方や思いを伺いました。
ブラザー工業株式会社 新規事業推進部長 安井邦博さん

※オープンイノベーション 企業が社内外の技術やアイデアを積極的に取り入れ、革新的な製品やサービス、ビジネスモデルなどを創出すること。

【キャリアのスタート】 技術職としてFAX設計からキャリアをスタート。シリコンバレーへの旅行・滞在を経て、CVC立ち上げへ

森さんー 長年にわたりブラザー工業で新規事業の分野に取り組んで来られた安井さんですが、入社当初はどのようなお仕事を担当されていたのでしょうか?

安井さんー 専攻が機械工学だったことから、当初はFAX部門に配属され、FAXのメカ設計をおこなっていました。当時ブラザー工業では国内外向けにさまざまなタイプのFAXを製造販売しており、私は国内向けの小型機種を担当しました。

森さんー そこから新規事業の分野に進むことになるきっかけはどのようなことだったのでしょうか?

安井さんー 最初のきっかけはプライベートでの出来事でした。入社2年目の夏、電機メーカーに勤める旧友と一緒にシリコンバレーに4泊5日の旅行をすることになりました。当時経済誌などでよく話題にのぼっていたものの、「シリコンバレー」はアメリカの地図を見ても載っていません。その実態に興味を持ち、当地の情報を深く吸収したいと思いまして、会社OB・OGのつてをたどってシリコンバレー在住の方を探し、当時シリコンバレーでベンチャーを立ち上げていた日本人経営者の方に自らメールでコンタクトをとりました。実際に現地でその方の会社に訪問し、仕事の内容や当地の事情などについていろいろと教えていただき、充実した時間を過ごすことができました。中でも強く印象に残ったのは、人ーが活き活きと働いている姿や、ベンチャー企業に出資をすることを生業にする「ベンチャーキャピタル」という存在です。日本の企業文化との違いを強く感じました。

プライベートの旅行でしたが、この体験は自分にとって大きな刺激となり、帰国後、レポートにまとめて上司に提出しました。次の年に、上司が懇意にしていたコンサルタントの方のオフィスにブラザー工業の社員を1人預けるという話が持ち上がった際に、そのレポートのおかげで私が推薦され、それから2年間、リサーチャーとしてシリコンバレーに滞在する巡り合わせとなりました。滞在中にはさまざまなベンチャー企業やベンチャーキャピタルを視察してそのダイナミズムを肌で感じ取り、将来的にブラザー工業での新規事業にどう活かせるかということを漠然と考えながら帰国しました。

森さんー 帰国後、実際に新規事業の創出に向けてどのような行動をとっていかれたのでしょうか?

安井さんー 1999年に帰国し、しばらくの間は次のステップに進むきっかけがなかったのですが、2002年末ごろから、本業とは別に、同じような関心を持つ先輩と一緒にベンチャーキャピタルを訪問し、ベンチャー企業に関する情報を集める活動を始めました。4社ほど回って協力をお願いし、最終的に独立系ベンチャーキャピタルの日本アジア投資様にご協力いただけることになり、ときどき出張の形で先輩と一緒に日本各地の同社支店を回り、情報交換をおこないました。それがベースとなって、2006年にはブラザー工業と日本アジア投資の連携によりコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)ファンドを立ち上げることになりました。

森さんー 実際にご自身でベンチャーキャピタルの取り組みに関わってみて、実感されたことはどのようなことでしょうか?

安井さんー ベンチャーキャピタルとしては財務上のシナジー、事業会社としては事業上のシナジーを主眼として、その両方を実現していくことがCVCの目標となりますが、それに適した投資先スタートアップをタイミングよく見つけ出すのはかなり困難なことだと感じました。そこで試行錯誤しながら、ベンチャーキャピタルが運営する既存ファンドに対する投資へと軸足を徐ーに移すなど形を変えて取り組んできました。

森さんー 既存事業もある中で、新規事業に取り組み続けるには、理解を得たり、調整が必要だったりと、社内での巻き込みが欠かせない場面もあるかと思います。そうしたとき、どのように周囲を巻き込んでいかれるのでしょうか?

安井さんー 新規事業にはどうしても壁があります。だからこそ、壁を乗り越える強い熱意を持って進むことが大切だと考えています。そして、そうした思いに共感してくれる仲間を、自部門に限らず、他部門や子会社、関連会社まで含めて探し、協力関係を築いていくことが重要だと感じています。

時代とともに事業ポートフォリオを進化させてきたブラザー工業のDNAのもと、「既存事業に安住するのではなく、新しい事業を立ち上げていくことが大切」と語る安井さん。情熱をもって新規事業に取り組み続け、コロナ禍においても、これまでの事業とは異なる切り口で、独自技術を生かしたスポットクーラーの開発など、新たな価値創出に挑んでいきます。

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